それはオレンジ色に輝くふたつのつぶだった(1)~お祭りですくってきた金魚を飼う~
決して金魚が好きだったわけでもない。
ペットを飼ったこともない。
彼らがアパートにやってきたのはある夏の朝だった。
近くに暮らす老親のもとに様子見かたがた泊まりに行くことが、いつのまにか我が家では週末のならわしになっていた。
二週か一週に一回、一人だけ、父ちゃんだけがおいてけぼりになる。
あくる朝、3人がだいたい10時ぐらいに帰宅してくる。たいがい日曜日の朝であるからまだ寝まきのままでいることが多い。
家族はそろって帰ってくることもあれば、下の小さな子供だけがあとから爺ちゃんに送られて帰ってくることもある。
その理由は二つある。一つは100円ショップにつきあわされているということと、もう一つはじいちゃんの軽自動車に乗りたいということ。ようするに下の子は車と車のおもちゃが好きで、じいちゃんはそれにつき合わされている。
そしてその日も、やはり10時ぐらいになると子供たちは帰ってきた。そしてその荷物の中に「彼ら」は発見された。それは透明のビニールの袋の中にオレンジ色に輝く小さな二つのつぶだった。
二匹の金魚は金色に腹を輝かしながら、しきりにはためいていた。
そして私は昨日スマートフォンにかかってきた電話の内容を思い出した。
「ねぇお父さん、金魚飼っていい?」
電話は妻からだった。
町内の夏祭りで金魚掬い(きんぎょすくい)の出店をだしていたらしい。お姉ちゃんが「やってみたい」といってチャレンジしてはみたもののすくえず、お店の人が2匹おまけしてくれたそうだ。
「だめだよね」
――「ダメだ」といったらどうしたのだろうか。
たぶん、そのままじいちゃんが「育てる」ことになって何日かして海のもくずかなにかになっていたことだろう。
あとで聞いたことによると、じつはじいちゃんは「金魚が飼ってみたい」と最近言い出して一生懸命ホームセンターに行って金魚を買いにいったり水草を買ったりしていた。
そこまでは知っていたが、子供たちが行くたびに金魚が数が減っていたり水槽が空になっていたりしてたそうだ。
そんな話を聞いていたこともあると思うが実は金魚でもメダカでもいいから部屋においておきたいとどこかで考えていた。
ひそかな願いであった。
しかし死んでしまっては殺生であるし、世話もたいへんであるしいろいろ考えて、せずにいた。だいいちこのせまい借りぐらしの住まいに金魚の居場所などあるのか。
しかしすくってしまったものはしょうがない。これはいい言いわけができた。
都合がよかった。
こうして二匹との生活がはじまった。
(2)につづく
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